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大阪家庭裁判所 昭和57年(家)3871号 審判 1984年4月11日

申立人 藤井雅夫 外一名

相手方 藤井好子

主文

一  被相続人の別紙目録記載の遺産のうち一の不動産は申立人各四分の一、相手方二分の一の割合で共有取得、二の預金は相手方の単独取得、三の物品は申立人らの共有取得とする。

二  申立人らは相手方に対し金一九、〇〇〇円を支払え。

三  本件審判手続費用は各支出者の負担とする。

理由

調査の結果、及び調停の経過にもとづき当裁判所が認定した事実と法的判断は次のとおりである。

一  相続人

被相続人には妻憲子との間に長男申立人雅夫と長女申立人和代があり、憲子が昭和四四年五月九日死亡したあと昭和四五年一月二六日婚姻届出をした妻に相手方がある。被相続人は食品加工業「○○」に勤務し、昭和五一年二月二〇日別紙目録一記載のマンションを購入し家族四人の生活であつたが、後記借金に追いつめられ昭和五七年五月四日同所で自殺した。

したがつて同日被相続人につき相続が開始し、その妻相手方、と嫡出子である申立人両名が共同相続人であるが、その法定相続分は申立人両名各四分の一、相手方四分の二である。

二  本件申立の経緯

本件相続開始後サラ金会社数社から遺族に借金の督促があつたところへ相手方が葬儀の翌日精神分裂病で入院したため、申立人雅夫は叔父方に、申立人和代は叔母方にそれぞれ引取られることになつた。そこで親族が協議した結果相手方代理人(相手方の姉)の夫は相手方に支払能力がないので相手方の相続放棄をする、その前提として相手方の禁治産宣告、後見人選任の審判申立をするというので、申立人後見人において被相続人の貸金債務を昭和五七年五月末頃次のとおり弁済した。

○○キャッシュサービス(株) 三五三、二五〇

○○クレジット(株)     三五三、二五〇

○○○○(株)        一六九、〇五九

(株)○○○○○○      一三九、九一九

○○○○フアイナンス○○支店 一〇六、二五七

○○○○            三四、三二〇

計           一、一五六、〇五五

ところが、相手方はその頃既に症状安定し、退院できる状態にあることが判明し前記審判申立が取下げられた。そこで申立人後見人が相手方と直接協議するべく病院にかけ合つたところ保護義務者の強い意向で面会を許可されないというのでやむなく本件申立に及んだものである。

三  相続財産の範囲

調査の結果被相続人の相続財産として残存するのは別紙目録に記載した不動産、預金、現金、物品である。

なお被相続人の死亡により同人を被保険者とする厚生年金保険から相手方に基本額六〇二、九〇〇円、寡婦加算二一万円、子一人につき六万円加給の合計九三二、九〇〇円の遺族年金額が支給されることになつた。

そこでこれを遺産として分割の対象とすることができるか検討するに原生年金保険法五八条は被保険者の死亡による遺族年金はその者の遺族に支給することとし、同法五九条で妻と一八歳未満の子が第一順位の受給権者としているが、同法六六条で妻が受給権を有する期間子に対する遺族年金の支給を停止すると定めている。そして妻と子が別居し生計を異にした場合でも分割支給の方法はなく、その配分の参考となる規定はない。そうすると同法は相続法とは別個の立場から受給権者と支給方法を定めたものとみられ、相手方が支給を受けた遺族年金は同人の固有の権利にもとづくもので被相続人の遺産と解することはできない。

それではこれを相手方の特別受益財産として遺産分割上持戻計算することができるであろうか。その場合受益額の算定は困難であり、かりに平均余命をもとに相手方の生存年数を推定し、中間利息を控除する算式では一三六七万円となるが、これを相続開始時の特別受益額と評価することは明らかに過大であつて、受給者の生活保障の趣旨に沿わない結果となる。更に遺族年金の受給自体民法九〇三条規定の遺贈又は生前贈与に直接該当しない難点がある。

結局本件遺産分割において遺族年金の受給、配分を考慮することはできないというほかない。

なお本件マンシヨン購入時相手方が定額郵便貯金二口一七〇万円を解約していることから相手方がこれを出資したものとみられるので調停の際相手方の立替金として清算することに双方合意した。

四  分割方法

相手方は現在なお入院中であるが、本件マンションに復帰する考えはなく、目下他の福祉施設に保護措置を希望している。

申立人は事前調査の際不動産を取得して相手方に代償金を支払う意向を示していたが、調停になつて債務負担の能力かないというので双方売却処分することに合意し、○○不動産株式会社に仲介を依頼している。しかしいわくつきの物件であるため未だ成約に至らないが指値を下げ、仲介業者をかえるなど工夫を要しよう。

引続き同マンションの売却に努力することとし差当つては当事者の法定相続分の割合で共有取得とするのが相当である。

なおマンション内にある家財中交換価値のあるものは見当らないので評価できず、電話加入権を相場価格金五万円とすると不動産以外の相続財産は六〇四、九二六円となるからその具体的取得額は申立人各自一五一、〇〇〇円、相手方三〇二、〇〇〇円である(以下一〇〇〇円未満切捨)。

そこで諸般の事情を考慮し目録二の預金は相手方、目録三の物品は申立人らの取得とすれば相手方は二五二、〇〇〇円の過分となるが(554,000-302,000 = 252,000)前記二、三の立替金し(1,700,000-1,156,055)÷2 ≒ 271,000円の求償債務を負担するから結局申立人らは相手方に対し271,000-252,000 = 19,000円を支払うべきである。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 篠原行雄)

別紙<省略>

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